冬虫夏草について

漢方の故郷である中国では、殷の時代より前、紀元前2000年頃から冬虫夏草の存在が知られていました。 泰の始皇帝(紀元前259〜紀元前210)や楊貴妃(紀元後719〜756)も不老長寿の秘薬として冬虫夏草を好んだといいます。

本来、冬虫夏草とはコウモリガの幼虫に寄生したものをいいます。(近年では、コウモリガ以外の様々な宿主に寄生したものも総称して冬虫夏草と呼んでいます)コウモリガはチベットやネパール、ヒマラヤ山系、四川省などの4000メートル級の高山地帯にしか棲息しない昆虫で、そのため冬虫夏草は庶民には手の届かない希少で高価ものとされてきました。

現代になってもこの状況はさほど変わってはいません。

冬虫夏草は、不老長寿ばかりでなく、滋養強壮として、また肺結核の治療にも長い間使われてきました。『増訂本草備要』には『肺や腎に力を与えてくれる』と記されています。

 


日本冬虫夏草にかける想い 矢萩夫妻の研究とは

1967年、親族を白血病で亡くした時、その悔しさが矢萩禮美子の研究の原点となりました。その女性は33歳の若さで同い年でした。幼い娘もおりました。

血を分けてやることしか出来ない自分の無力さを思い知ったといいます。

一方、病院薬剤師として働く夫の矢萩信夫を介して、がん患者さんが化学合成薬(抗がん剤など)の副作用で苦しんでいる実状を知り、疑問を持つようになっていました。『がん患者さんにとって西洋治療は、かえって治す力を封じ込めてしまっているのではないか』、 『人間が本来持ちあわせている治す力を引き出して穏やかに効くものはないか。自然界には必ずあるはず』と、夫婦で探し始めました。

免疫力を強め、生涯にわたってそれを維持できれば病気とは無縁で不老長寿が叶います。不老長寿の代表である冬虫夏草の働きに興味を持つようになったのも自然の成り行きでした。

 

また、人類は、病気と形状の似ているものを薬に使ってきたという歴史があります。胃がんの民間薬として日本で使われてきたサルノコシカケなどは、まるで木の幹にできたしこりのようです。冬虫夏草もそう見えないこともありません。ただ、サルノコシカケは植物に寄生するのに対して、冬虫夏草は活発に動きまわる生きものに寄生します。後者の方がより人間に近く、働きも強いのではないかと直感したのです。

日本でも数百種類(現在は500種類以上が確認されています)が生息することを知りました。

すぐに冬虫夏草の大家である清水大典先生に師事し山中を駆けまわりました。

しかし、日本でも、空から落とした一本の縫い針を大きな山から探し出すようなもので、希少さに変わりはありませんでした。これでは、動物実験の試料にするなど夢のまた夢でした。


人工培養に成功、実験試料を用意

それでも目的達成のため、矢萩夫妻は決して諦めることはありませんでした。

失敗の連続でしたが、試行錯誤の末、世界で初めて人工培養による量産化に成功しました。1976年のことです。

ついに動物実験に漕ぎ着け、翌、1977年には日本冬虫夏草のひとつに強い抗腫瘍性があることを突き止めました。この結果は学会発表後、この年のサイエンス6月号にも掲載されました。

以来、独自の量産法により、実験は飛躍的に進みました。1983年に東北大学と共同で行った動物実験では、CY18に強い抗腫瘍性が見つかっています。

 


科学的実験データを積み重ねていく

これまで、抗腫瘍性はもとより、安全性試験、亜急性毒性試験、腸内のパイエル板の刺激による免疫力上昇作用、および調節する作用、抗酸化作用、抗認知症作用、がんの血管新生を抑える作用、がんにネクローシス(細胞の事故死)とアポトーシス(細胞のプログラムされた自らの死)を起こさせる作用、抗がん剤投与後のダメージを受けた免疫機能を賦活させる作用、抗がん剤投与後の貧血を改善させる作用等、動物実験のデータを積み重ねてきました。

一方、人に対してのデータとしては、末期がんの患者さん達に対して行った調査データがございます。これは国内の学会で発表し、その後アメリカのNIHに出向いて発表しています。


更なる探求 未来に向けて踏み込む

2006年から冬虫夏草のどの種類でどの分野の働きが最も強く出るのか、培養が成功している250種類の中からスクリーニング(ふるい分け・選別)を行っています。

たとえば、正常細胞には毒性が無く、白血病細胞を著しく死滅させるのはどの種類の冬虫夏草なのかを突き止めました。このようにどの種類が、がん細胞にアポドーシスを起こさせるのか、試験管レベルでスクリーニングをしています。この論文は、海外の学術誌に掲載されました。

また、腸内のパイエル板を刺激して免疫力を上げる物質は糖タンパクであるというところまで構造解析しました。免疫力を上げるということは、がん細胞を掃除する掃除機をパワーアップさせるようなものです。これは、文科省から、独創的かつ先駆的な研究と評価されました。

2020年から、当研究所の顧問で、現役医師・医学博士である嘉陽毅氏による「マイクロアレイ遺伝子発現解析」を行っており、人に近い哺乳類のマウスを用いて、遺伝子レベルで冬虫夏草がどのように作用しているかを研究中です。

冬虫夏草の薬用資源としての可能性はますます広がっています。